◎次の文を読んで、 (76) ~(80)の設問に最も適当な答えを選びなさい。 ある人が体験談を披露してくれた。イギリスの空港で腰掛けて待っていたときのこと。向かい
に日本おばさん二人がかけていた。一人が荷物をおいて立ち上がってどこかに行った。そのとな
りは空席。そこにイギリスおばさんが二人来た。二人並んで座りたいのだろう。日本おばさんに
尋ねている。荷物のおいてある席が (76) か聞いているらしい。日本おばさんが何か言
ったが通じない。イギリスおばさんは「アイ ベッグ ユア パードン」と言った。そしたら日
本おばさんは、ゆっくり、はっきり、日本語で「こ、こ、き、ま、す。」と言ったのだそうだ。
ちゃんと通じて、イギリスおばさん二人は、荷物のそばの空席と向かいの空席に分かれて座った
そうだ。
相手の分かることばを無理に使う必要はないわけだ。
そういえばモスクワのトレチャコフ美術館に行こうとしたときに、似た経験をした。 (77) の
地図では近いので、歩きはじめて、途中で気づいた。モスクワは大都市で、1ブロックがやけに
大きい。歩くには遠すぎる。途中までのバスがないかと思い、バス停で身振り手振りと英語で尋
ねてみた。通じる人はいないようだ。 (78) 、中年女性が乗り出して、こちらの腕をと
り、ゆっくりとロシア語で説明しはじめた。どうも道路の下をくぐり、向こうの橋を渡ると、斜
めの近道があるらしい。建物の方向も分かった。「こちらはバスを探しているんだけど」と、と
まどっていると、その中年女性は、もう一度ゆっくりと繰り返した。ロシア語の中身は (79) だ
ったが、道順はよく分かった。礼をねんごろに言って、歩いた。実に、実に、いい運動になった。
思えば、あの話し方はどうも、だだをこねている子供(=筆者!)に、「こうすればいいのよ」
と辛抱強く (80) 調子に似ていた。
外国人向けの話し方をフォリナートークという。幼児向けのベビートークと似た点がある。外
国人と子供はよく言語行動面で同じように扱われるが、その典型だ。
外国語教師に女性が多く、その教え方が上手だとしたら、母親としての言語行動を、若いとき
から、身につけていたせいだろう。要するに学生は赤ん坊扱いなのだ。
【井上史雄『ことばの散歩道』(明治書院、2013)より】
【題組】78
(A)あきらめしたら
(B)あきらめでたら
(C)あきらめかけたら
(D)あきらめおわったら